相続人になれない場合 相続欠格事由と被相続人の排除について

 民法は、886条以下に規定で、相続人になる者の範囲を規定しています。

 配偶者や子、直系尊属、兄弟姉妹等が相続人として規定されています。

 他方で、民法は、本来相続人になるはずの者が相続権を失う場合についても規定しています。

 そこで、今回は、民法が規定している相続人になれない場合について、解説します。

民法886条(相続に関する胎児の権利能力)
 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。

民法887条(子及びその代襲者等の相続権)
 被相続人の子は、相続人となる。
 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

民法889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
 被相続人の兄弟姉妹
 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

民法890条(配偶者の相続権)
 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

目次

相続欠格事由

 1つ目は、被相続人の意思とは関係なく、当然に相続権を失う場合です。これを相続欠格事由(そうぞくけっかくじゆう)と言います。 以下の5つの事由がある場合、相続人になることが出来ません。

1 故意に被相続人または先順位もしくは同順位にある相続人を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者。

 ⇒自分の親や兄弟に対する、殺人事件や殺人未遂事件を起こせば、相続権を失います。殺人によって、相続財産を独り占めしようとすることは出来ません。

2 被相続人が殺害されたことを知って、これを告発または告訴しなかった者。

 例外:ただし判断力がない者または殺害者が自分の配偶者もしくは直系血族であった場合は、除きます。

 ⇒自分の親が、叔父さんに殺害されたのを知っているのに、黙っていた場合、相続人になる資格を失います。
 しかし、自分の夫(妻)や子供が、自分の親を殺害した場合は、例外的に、相続人の資格を失いません。これは、身近な人を告発、告訴するのは心情的に酷であるからです。
 もっとも、告訴告発しなくても犯人が叔父さんなのは明らかで、警察の捜査に何ら支障がない場合には、自ら告訴告発する必要はありません。

3 詐欺、強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消させ、又は変更することを妨げた者

 

4 詐欺、強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

 ⇒遺言は、本人の意思によってなされなければならないので、それを他人がだましたり、おどす行為によって、妨げてはいけません。
 したがって、詐欺や強迫行為によって、遺言を作成、撤回、取り消し、変更させたり、逆に作成、撤回、取り消し、変更するのを邪魔する行為をした者は、相続人になる資格を失います。

5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者。

 ⇒遺言書を、①被相続人(父親)名義で相続人(子)が遺言書を作成したり、②被相続人(父)が自己名義で作成した遺言書に、相続人(子)が変更を加えたり、③遺言書を破って捨てたり、④遺言書を発見できないように隠した場合、相続人の資格を失います。

 以上の5つのいずれかに当てはまる場合、当然に相続権を失います。

 「当然」にとは、裁判などの手続きは不要ということです

根拠条文:民法891条 (相続人の欠格事由)

次に掲げる者は、相続人となることができない。
一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二  被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三  詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四  詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五  相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

推定相続人の廃除

 2つ目は、被相続人の意思によって、相続権を奪うことができる場合です。これを推定相続人の排除(すいていそうぞくにんのはいじょ)といいます。

推定相続人の廃除とは、被相続人の意思で、特定の相続人の相続権を奪う制度です。

1 排除対象者

 排除の対象となる相続人は、遺留分を有する推定相続人です。

 遺留分を有しない、兄弟姉妹は、排除の対象になりません。兄弟姉妹の相続分は、遺言で彼ら以外の者に全て遺贈することで完全に排除することができるので、排除の対象になっていません。

 遺留分とは、相続人が最低限受け取ることが出来る遺産を言います。

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2 排除の方法

 排除は、被相続人の意思で行うことが出来ますが、家庭裁判所の審判手続を申し立てる必要があります。

 また、被相続人は、遺言で排除をすることもできます。遺言で排除の意思を示した時は、遺言執行者が、家庭裁判所に排除の審判申立を行う必要があります。

3 排除事由

 排除は以下の事由のいずれかがある場合にできます。

⑴ 被相続人に虐待、もしくは重大な侮辱を加えたとき。

⑵ その他著しい非行があったとき。

4 排除の取消し

 一度、推定相続人の廃除をした場合でも、被相続人は、いつでも、取り消すことが出来ます。

 排除を取り消す場合も、家庭裁判所の審判手続をする必要があります。

根拠条文:民法892条 (推定相続人の廃除)
 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

民法893条 (遺言による推定相続人の廃除)
 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法894条 (推定相続人の廃除の取消し)
 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

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